一般個人のみなさまへ
高齢者住宅政策のミニ歴史
この項目はちょっと退屈かもしれません(個人的には関心高いのですが)。
高齢者に特化した住宅政策の歴史はそれほど古くはありません。明治時代、キリスト教や仏教による民間の慈善事業としての養老施設が高齢者の居住施設の始まりといえるでしょう。1895年、東京に作られた英国人エリザベス・ソートン氏による聖ヒルダ養老院が最初といわれています。確か今も社会福祉法人として続いているのではないでしょうか。
時を経て、第二次大戦後に制定された福祉三法の生活保護法にもとづき、養護老人施設がつくられました。昭和30年代で全国に460ヶ所定員2万6706人と厚生白書(昭和40)に記載があります。また、昭和26年に有料老人ホーム第1号が東京につくられ、30年4月1日時点で9ヶ所確認されています。その後、1963年に老人福祉法が制定されたことが高齢者の居住施設に大きく影響しました。身寄りのない高齢者などを対象に養護老人ホーム(A型)が61年に創設され、63年には介護が必要な高齢者を対象とする特別養護老人ホームが開設されました。さらに老人福祉法では第29条で有料老人ホームに関しても制定されたことにより、有料老人ホームの設置も以降増加していくこととなったのです。
1970年代には高齢化率が7%を超える高齢化社会となり、高齢者施設・住宅の不足が深刻化していきました。社会福祉施設緊急整備5ヶ年計画が策定され、特養ホームを整備し、自炊型の養護老人ホーム(B型)も71年に創設されました。70年から80年にかけては高齢者介護が問題化し、施設が増加していったのです。
1980年代には老人保健法に基づいた老人保健施設、老人福祉法による軽費老人ホームの一種であるケアハウスがそれぞれ86年、89年に制定されます。また住宅政策としても福祉と連携したシルバーハウジングの制度ができました。高齢者が暮らしやすいバリアフリー化された住居に、生活援助員(LSA)が配置された賃貸住宅です。ただし、食事や介護などの生活支援はなく、LSAによる生活相談と安否確認のみが付加された住宅。東京ではシルバーピア事業と称されています。所得に応じて家賃が軽減されるので、特に低所得高齢者への居住制度といえます。
1990年代に入り、高齢者介護の問題はますます深刻化していくものの、基礎構造改革をはじめ社会福祉財源のあり方が議論になりました。措置から利用契約へと介護の市場化へシフトする介護保険もいよいよスタートアップする時期となり、さまざまな高齢者住宅が出現してきます。80年代にスウェーデンで認知症介護の効果が実証された認知症(当時は痴呆性)グループホーム、社員寮などをコンバートした有料老人ホーム類似施設などもできました。また、住宅系では国交省を中心に認定シニア住宅の制度が制定され、98年には建設補助金や入居者の家賃補助などを制度化した高齢者優良賃貸住宅(高優賃)も創設、ただし、高優賃の家賃補助は開設後20年までで、それ以降の入居者の負担が課題となっているのが現状です。
2000年に介護保険が施行されたことにより、有料老人ホームをはじめ高齢者住宅が爆発的に激増しました。介護施設としては、介護老人福祉施設(特養ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設がありますが、自治体の財源負担が大きいため、入所定員はニーズを満たすことはできず、どこも微増です。住宅系では2006年に高齢者専用賃貸住宅(高専賃)の登録制度が創設されるものの、2011年に高優賃、高円賃などと統合しサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)となりました。
2017年時点の大きなくくりとしては、福祉系高齢者住宅として、要介護者向け施設が特養ホーム、老人保健施設、療養型医療施設、認知症グループホーム、有料老人ホーム(介護型)、比較的自立者向けにケアハウスや有料老人ホーム(自立型)があります。住宅系では、シルバーハウジング、高齢者向けの公営住宅、サ高住が中心となるでしょう。実態としては、公的な補助がある施設や住宅は入居希望者が多く、要件も厳しいので民間運営への関心が高くなっています。
一方で、一般消費者が複雑化した高齢者住宅カテゴリーから自分に適したものを選ぶのは容易ではありません。欧州では住宅とケアの分離が進んでおり、介護一体化の「介護施設」は限定的です。日本もたとえば分離型が住宅系、一体型が福祉系など分類できるかというとそうでもなく、そして分類の複雑さはそれだけではありません。